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カテゴリ:小説( 15 )


ポテト王国 #15

「おお,お待ちしておりました!」

カラスたちが12畳ほどの部屋に僕らを迎え入れると,
そこにはもう,湯気を上げるあたたかい料理が用意されていた。

ごはん,お新香,とうふ,魚の焼き物,茶碗蒸し,根菜の煮物…

なんだか,ほっとする。
カラスと5人の弟子,そして僕とコージローを合わせた8人は,
旅の話とおいしい料理で,ひとときを過ごした。

予想していた通り,カラスたちは僕らの経歴を知りたがった。
『あいつらと話すときは,自分が聖人だと思って,とことん妄想を広げるんだ』
コージローと事前に話していたとおり,
僕らはそれっぽいことを,自分でもあきれるくらい口からでまかせにしゃべった。
そのたびにカラスたちは感嘆の声を上げて僕らの話を信じていたから,
なんだかちょっと,悪いことをしている気持ちになった。

そうこうしているうちにすっかり時間が経って,
この部屋に8人で寝るのかな…と思っていると,カラスが笑顔で言った。
「さ,ポテト様とコージロー様は,隣にお部屋をご用意したので,そちらでお休みくだされ。
 ワシらと同じ部屋では,申し訳ないですからな」
「あ,そんな…でもあの,別室を用意していただくなんて,ありがとうございます」
「ゆっくりお休みくだされ。
 それから,明日はどうか,この服をお召しになっていただきたいのです。
 我らは東の国からやってきた一行ということで,国王の謁見を賜ることになっていますから…」
そう言ってカラスは,艶のある生地でできた,白い和服と黒い和服を差し出した。
僕が白で,コージローが黒。
「わかりました」
「ありがとうございます。では,明日の朝」

カラスたちの部屋を出て隣の部屋に入ると,
そこは8畳ほどの広さで,布団が敷いてあった。
「あぁ~,疲れたね!」
「疲れた!あいつらの話,退屈でたまらん」
布団の脇に座り込んで,大きな伸びをするコージロー。
「でもそう言うわりには,コージロー,楽しそうにデタラメをしゃべってたよ」
「え,そうだったか?まぁ,センドーもだけどな」
ニヤニヤと笑う。
ふと,こんな表情のコージローははじめてかもしれないな,と思った。
「さ,風呂入ろうぜ,風呂」

僕らははじめ,カラスたちが泊まる宿が,こんなに大きいものだとは思っていなかった。
修道者が泊まる宿だから,寝る場所だけの,質素な宿だろうと思っていた。
でも実際は,町の一角を占める三階建ての大きな宿で,
特に飾り立てているわけではないけれど,部屋も大きいし,料理もおいしいし,
おまけに,大浴場まで完備している。
「カラスさんたち…よくこんな宿に泊まれるだけのお金があったんだね」
「…あのくだらん説法をありがたがる人たちから,お布施を集めて貯め込んできたんだろ,きっと」

大浴場では,数名の宿泊客が,湯気のたちこめる中で静かにくつろいでいた。
なみなみとたたえられた湯。
ちょっと熱めだけれど,肩までつかると身体の芯からあたたまって,
旅の疲れが癒された気がした。

「そう言えば,カラスさんたち,いなかったね」
湯から上がって,部屋に戻る。
「ずっとアンザンシ様の話でもしてるんだろ?」
「すごいなぁ…」
僕はそのまま,ふかふか布団の上に,倒れこむ。
「ああ,幸せ…このまま眠ってしまいそう…」

…!

顔を上げる。

コージローは,窓から真っ暗な夜の町を眺めている。

「ごめん…」
「…え?」
「…」
「…ああ,気にすんなって。フリスクもあるし…な」
「…僕も一晩,起きてるよ。コージローが眠りそうになったら,起こすから」
「はは,頼もしいねぇ。でも,無理しなくていいから」
「ううん,起きてる。この一晩だけだからさ…」

それから二人で,現実の世界の話をした。

学校の話,友達の話,家族の話,趣味の音楽や本の話…

でも…

夜が更けてどれくらい経ったのか…
意識が…朦朧としてきて…もう,どうしても…目を開けていられなくて…
ぼやけてゆく視界で…黒い影になるコージロー…ごめん…
「ありがとう。もう,眠りな」


次の日,黒い雲が低くたちこめる中,
僕らとカラス一行は王国の城に向けて出発した。
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by coperfeels | 2010-02-14 21:08 | 小説

ポテト王国 #14

話の中で,一行の長である老年の男の名前は,
「カラス」だということがわかった。

彼らが身体を休める宿は,町の大通りから北に二つ目の通りにあって,
どこまでもついて来ようとする彼らに「先に宿に戻っておいてください」と伝えてから,
僕らは駄菓子屋のおばあさんのところに向かった。

夜を迎える町の風は強くなってきていて,
僕は紙の束が飛ばされないように胸に抱えて歩いた。

「『アンザンシ様』に『カラス』か…なぁ,ふざけてると思わないか?」
コージローが皮肉な笑いを浮かべてつぶやいた。
「?」
「いや,『アンザンシ』って,カカシじゃねぇのと思ってさ。
 カカシって漢字で書くと『案山子(アンザンシ)』だろ?」
「あ」
「カカシにカラスって,なんか牧歌的で,力抜けるよなぁ」
「はは…,なんか,ねぇ」
「あいつら,うさんくさいけど,今夜宿に泊めてくれるって言うし,
 センドーを祀り上げて王様のところに連れて行ってくれるらしいし,まぁ,いいか」
「うん,そうだね…確かにうさんくさいけど,変なことに巻き込まれたりしなかったら,
 大丈夫だよね」

駄菓子屋のおばあさんは,白熱灯がともる店内で,
静かにうたたねをしていた。
「おばあさん,聞いてきたよ」
「…?あ,ああ,あんたたちかい。ごめんね,眠ってしまってたよ」
「店を開けたまま眠ってたりしたら,危ないですよ」
「いいのいいの。ここではそんなこと,ありゃしないんだから…
 まあ,その紙。そんなにたくさんのお話だったのかい?
 大変だったねぇ…ありがとうね」
「いえいえ」
おばあさんに,紙の束を手渡した。
「あとからゆっくり読ませてもらうけど,どんなお話だったんだい?」
「いや~,実にくだらない話ですよ」
僕よりも先に,コージローが答えた。
「あら,そうなの?ふふ,くだならい話をこんなに,ねぇ。
 まあいいわ。くだらない話でも,ひまつぶしになるから。
 …そうだ,約束だったわね。
 そこにあるフリスク,好きなだけ持っていっていいからね」
「ありがとう,おばあさん」
「いいのよ,こちらこそ,ありがとうね。
 じゃあわたしは,そろそろ店を閉めようかね。
 今何時かな…」
そう言っておばあさんは,ポケットから「時計」を取り出した…

「時計」ではなく,ポテトだった。

「あらやだ,この時計壊れちゃってるわ…」
小さなポテトをしげしげと見ながら,おばあさんがつぶやく。
言いようの無い不安が,背中を這い上がってくる。
「…おばあさん,それ…ポテトだよ?」
「え?やだねぇ,あんた,これは時計だよ。
 …最近流行っているの?そういう冗談」
「い,いや,冗談じゃなくて,本当に…」
「そう言えば,この前ここに来た男の子も,そんなこと言ってたかしら」
「…?」
「はじめて見る顔の男の子でね…
 その時はわたしをからかってるのかなって思ったけれど,
 しばらくしてまたこの店に来たときには,この時計を見ても何も言わなかった。
 ちょっと痩せていたけれど,すっかりこの町になじんだようだったわ」

駄菓子屋をあとにした僕とコージローは,
強い風に吹かれながら,薄暗い通りを歩いた。

「…はやくこの町を出なきゃだめだ」
コージローが風から身を守るようにして言う。
「うん…」
「ここは…この夢に取り込まれてしまったた人たちの町だったんだ。あのおばあさんも…」
「…この町の人はみんな,自分が何をポテトにしたか,もう忘れてしまってるんだね…」
「ああ。自分がポテトにしたものを,ポテトだと思わなくなってる。ポテトが,見えなくなってる」
「ねぇ,コージロー。怖くなってきたから,もう一度確認しよう…僕らがポテトにしたものを」

「…俺は,夢」

「…僕は,自分の名前」

明日の朝,すぐにこの町を出ることを決意した僕らは,
カラスの待つ宿に向かった。

 
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by coperfeels | 2010-02-14 00:19 | 小説

ポテト王国 #13

「…以上でワシの話は終わりじゃ。
 皆の中で,ワシとともにアンザンシ様への道を歩む決意をしたものは,
 この場に残るが良い」

修道者のような老年の男が話し終えると,
しばらくの間人々はざわついてその場にとどまっていたが,
特に「アンザンシ様」に興味を持つ者はいないらしく,ぞろぞろと帰りだした。

その間,男は腕を組んで仁王立ちになって瞑想していたが,
かなりの枚数になった紙を抱えて帰ろうとする僕とコージローに気づき,
おもむろに…ゆっくりと近づいてきて,こう言った。

「ほう…おぬし,今の話を,すべて書き取っておったのか?」
「はい…」
あまり絡まれたくないな…と思いながらも,僕は答えた。
「まだ子どもだというのに,立派な心がけじゃ。
 アンザンシ様は,そのような心がけのある者を見捨てぬぞ。
 おぬし,名は何と言う?」

行くぞ,とコージローが僕の腕をつかんだけれど,
その時にはもう,僕は自分の名前を名乗ってしまっていた。

「…仙道 歩天人です」

その瞬間,男の目がクワッっと見開かれ,
驚きの表情と喜びの表情が混じったような,
時間が止まったような表情になった。

「…歩天人…
 …歩天人…お…おぬしが…いや,
 そなたが,歩天人様!!!!」

「…!?」

周りにいた,男の弟子達も驚きの表情で群がってきた。

「皆の者,このお方が,我らをアンザンシ様の元に導く『歩天人』様じゃ!!!!」
「おぉーーーーーー!!!!」
「歩天人様だ!!」
「歩天人様っ!!」

「…!!?」

「驚かれるのも無理はない。
 そなたは,我らをアンザンシ様の元に導く運命を持っているのじゃ…
 ぜひ,我らとともに旅をしていただきたい」
「…え,でも,僕らは用事があるから,無理です」
「そうだ,俺らはとっととこの町を出て,この国の王様に会いにいかなきゃならないんだ」
「ほほう…!なんと奇遇な!」
男が目を輝かせる。
「我らも,明日,ポテト王国の王様の謁見を賜る予定なのじゃ。
 我が国の文化を伝える使者としてな。
 ああ,歩天人様と共に参れるとは…!」

僕とコージローは,驚いて目を合わせた。
どうやって王国の城に入るか…僕が抱える最大の問題は,
この老年の男が僕の存在を証明してくれることによって,
解決されるかもしれない!!
闇に差すかすかな光を見て,胸がふるえた。

「なんという僥倖!明日は素晴らしい一日となろうぞ!
 おお,そう言えば,歩天人様は今夜,どちらにお泊りで?」
「…いや,それが,お金が無くてどこにも…」
「…おお,なんという試練!
 清廉な歩天人様にこそ与えられる,天の試練じゃ…
 その試練に向き合い,アンザンシ様の元へ向かう歩天人様の妨げとなるやもしれんが…
 どうか,今夜は我らの宿に,共にお泊りくだされ」

いいのか…?という疑いの気持ちと,
宿に泊まれることを幸運だと思う気持ちが入り混じって,僕は,コージローを見た。
コージローは,苦い顔をしていたけれど,僕の目を見て,うなずいた。

「…わかりました」

男たちは,轟くような歓声を上げた。
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by coperfeels | 2010-02-07 19:48 | 小説

ポテト王国 #12

その一行がいるという通りに向かう途中,
僕らは,いくつかの奇妙な光景を目にした。

多くの人が通りを行き来する中,
一人のおじさんが向こう側から歩いてきた。
散歩をしているようだった。
右手にはロープを持っていて,その先にはポテトがくくりつけられていた。
おじさんは,ポテトを引きずりながら歩いていた。

僕とコージローは,不審と好奇心の目でそれを見ていた。
すると,反対側から別のおじさんがやって来て,
お互い親しい仲らしく,あいさつを交わした。
そして,後から来たおじさんが,
しゃがみながら,こう言った。

「ワンちゃん,今日も元気だねぇ~!」

通りの別の場所では若者たちがたむろしていて,
頭にポテトをくくりつけた一人の青年が,仲間から何か言われていた。

「どうした,テッちゃん。今日は帽子なんかかぶって」
「オシャレに気を遣い始めちゃったか?何かあったな,コイツ」
「…よせやい」

そんな光景を見るたび,僕とコージローは顔を見合わせたけれど,
お互い,何か言おうとしてもうまく言葉にできなかった。

駄菓子屋のおばさんが言ったとおり,
一つ目の十字路を右に曲がった先には,大勢の人だかりができていた。
その中心には,紺碧の布を身にまとった,修道者のような老年の男がいた。
禿頭,ぐいっと上を向いた眉尻,ワシのような目,豊かな口髭,胸を隠すほどまで伸びたあご髭。
眉も髭もすでにまっ白になっていたが,剛健そうな体格と,力強い口調,そして身振り手振りが,
男の中にみなぎる気力をありありと物語っていた。

「今ここに集まった者たちは,真理を追究する志,あるいはその素質を持った者たちだろう。
 幸いなるかな,我らが偉大なるアンザンシ様は,そなたらを真理の淵源に導きたもうぞ。
 真理の淵源に辿り着いた者たちは皆,生老病死の四苦から開放される。
 日々変わらずとも,己の内にある魂本来の慈愛で,憂い無き生を全うできるであろう。
 ここから遥か3000里の東方にある我らの国では,偉大なるアンザンシ様の…」

すでにコージローは話を聞く気を失くしていて,ぼーっと周りを眺め回していた。
僕は,よくわからない話を,おばさんからもらった紙に書きつけていた。
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by coperfeels | 2010-01-16 09:37 | 小説

ポテト王国 #11

「え,いらないのかい?」
「いや,ほしいんですけど,タダでもらうのはよくないです。
 自分が何もしていないのに,他人から何かもらえるなんて,
 そんなおかしい話,ないですから」

こんなときにコージローがオカタイことを言ってるもんだから,
彼の服を引っ張ってこっちを向かせた。

「コージロー,おばあさんが,親切心でくれるって言ってるんだから,
 ありがたくもらおうよ,ね。
 僕らには時間がないんだから」
「それとこれとは,別問題なんだ」

取り付く島もない…

「おばあさん,何でもやるんで,働かせてください」
「でもねぇ,ほんとにもう,間に合って…
 あ!そうだ」
「何か,あります?」
「いえね,今日この町に,ありがたいお話をしてくれる人達が,遠いところからやってきたみたいでね」
「ありがたい話?」
「なんでも,あちこちの村や町を話しまわっている一行で,なんて言ったかな,ええっと…」
「…」
「…ああ,思い出せないわ。ごめんなさいね。
 それでとにかく,私もそのありがたいお話を聞きたいんだけれど,
 店を開けるわけにはいかないから,私の代わりに話を聞いてきてほしいのよ」
「だったら,俺が店番をするから,おばあさんが聞いてきなよ」
「そうしたいんだけれどね,私はここを離れられないのよ」
「大丈夫ですよ,俺たちが店番すりゃあ,ネズミ一匹入れやしませんから」
「…だめなのよ。私はここから離れられないの。
 もう,500年間,一歩もここを出ていないわ。」
「ご,ごひゃくねん!!?」

僕とコージローはあぜんとした。
コージローは何か言いかけたけれど,うつむいてから,「そうですか」とだけ言った。

「とにかくね,私はここを離れられないの。
 だから,あなたたちが私の代わりに聞いてきてちょうだいな」
「…わかりました」
「それでね,私みたいなほかの人にも聞かせたいから…
 よいしょ…っと…
 この紙に,そのお話の内容を全部書き取ってきてほしいの」
「…え,書き取り!?」

うろたえるコージロー。

「そう。そうしてくれたら,フリスクをあげるわ。いくつでも。
 その一行はね,たしか,この通りを左に行って,一つ目の十字路を右に行った先にいるって聞いたわ」
「はい,えぇと,わかりました…
 じゃあ,行ってきます…」

ぎこちなくこちらを振り返りながら,沈んだ顔でコージローが言う。

「センドー…,俺が働くとか言っておきながら…誠に申し訳ないんだが…」
「…どうしたの?」
「…俺,字を書くのが苦手なんだ」
「え,そうなの?」
「人の話を…しかも,ありがたい話といった類のことを全部書き取るのは,
 まったく自信がない」
「…じゃあ僕がやるよ」
「本当か!?センドーは神様だな!!」
「いやいや,それくらい,朝飯前だって」
「恩に着る!!」
「それよりさ,さっきあのおばあさんが言ってた,500年間ここにいるって,どういうこと?」
「たぶん…,…いや,もうちょっと頭の中で整理してから話させてくれ。
 ただ,あのおばあさんが500年間ここにいるってのは,事実だと思う」
「…」

僕らは,互いに無言のまま,
ありがたい話をしてくれる一行のもとへと向かった。
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by coperfeels | 2009-12-05 21:27 | 小説

ポテト王国 #10

時の町に入った僕らは,夕方の町の賑わいを見て,少しホッとした。
僕らは,観光客のように周りの様子を見ながら歩いた。

この町の建物はどれも白い土でできていて,
今の時間帯は,赤みがかったオレンジ色に染まっている。
2階建て~3階建ての建物がいちばん多いけれど,向こうの方に,
周りの建物よりも大きい建物がある。
僕らが歩く大通りの両脇には,たくさんのお店が軒を連ねている。

大きな台に,色鮮やかな野菜や果物を積み上げている店,
赤々とした肉の塊を,軒先に幾つもぶらさげている店,
よくわからないけれど,お菓子のようなものを売っている店,
小ぢんまりと,生活雑貨を売っている店,
絨毯やら布やら何やらで,けばけばしいオーラを放っている店,
人々で賑わう食堂…

楽しそうな話し声が町のあちこちで飛び交っていて,
何だか気分がウキウキしてくる。
そんな僕の方をちょんちょん,とたたいて,コージローが言った。

「なぁ,フリスク買いに行っていいか?」
「え,何,フリスク?」
「ああ,あれがないと,眠っちまうんだ。
 …川で流されたときに,失くしちまった。」
「あ,そっか…でも,この町でフリスクなんて売ってるのかな?」
「…きっと売ってるさ」

半信半疑の気持ちを抱えながら,少し先にある,駄菓子屋のようなお店に入った。
店の中には,白髪をきらびやかな飾りでまとめたおばあさんが,座っていた。

「いらっしゃい」
「こんにちは。おばあさん,フリスクある?」
「フリスクかい?勘定場の脇の棚に置いてあるよ」

得意気な顔で僕を見るコージロー。

「…あるんだね」
「ああ,この夢はヘンテコでな。
 思い通りにいかないくせに,ささいなことが思い通りになることが,たまにある」
「こんなところで,運を使っちゃっていいの?」
「使えるだけ使え,だ」
「…」
「さあ,さっさと買っちまおう…」

そのとき,
僕とコージローは,
大きな問題があることに気づいた――


お金が,ない。


急に喉元を締め付けられるような気持ちになった。
これじゃ,フリスクはもちろんのこと,宿に泊まるなんてできやしない…
コージローを見ると,うつむきながらも,その顔は何かを決心したように見えた。

「おばあさん。俺たちには,金がない」
「え,そうなのかい?」
「でも,どうしてもこのフリスクが欲しい。だから,ここで働かせてくれないか?」

やっぱり,そうするしかないか…

「働かせてくれって言われてもねぇ…間にあってるんだよねぇ。
 そんなにほしいんなら,一つくらいあげるよ」

え,ラッキー!!コージロー,やったね!!

「それはだめだよ,おばあさん。」
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by coperfeels | 2009-11-23 19:21 | 小説

ポテト王国 #9

「夢?」
「そう…」

僕らは,歩き出した。
コージローは全身びしょ濡れだったし(あ,この理由もあとで聞こう),
僕も川の中にしりもちをついていたせいで,下半身が水に濡れてしまっている。
森の中は薄暗くて少し寒いから,日のあたる場所を探すことにした。

「まぁ考えてもみな。夢は現実世界と無関係だろう?
 それと同じで,この夢の中でポテトの夢を見ても,全く悪影響がないと踏んだわけよ」
「あ,なるほど」
「でもよ…とんだ誤算だったぜ」
「…どうして?」
「俺は一度,このポテト王国の夢の中で,眠りについた。
 そしたら…どうなったと思う?」
「え,ポテトの夢を見たんでしょ?」
「ポテトならまだ良かったんだ。
 …「ポテト王国」の夢を見たんだよ」
「…!?」
「つまり,この「ポテト王国」では,「ポテト」が「ポテト王国」なんだ。
 だから,「ポテトの夢」を見ることは,「ポテト王国の夢」を見ることになっちまうんだ」
「え,じゃあ…」
「…俺は今,この夢の5階層目にいる…」
「…え!?」
「いちばんはじめに見たこの夢を,1階層目とするだろ。
 俺はその夢の中でポテト王国に向かったが,あまりにも王国が遠くて,
 旅の途中で眠っちまったんだ」
「そりゃぁ…眠るよね…」
「ああ,当たり前のことだ。俺も何の疑いもなく眠った。
 そしたら,現れやがったんだよ…あのひょっとこが」
「…」
「しかも今度は,「何をポテトにするか」なんてことを一切聞いてきやがらねぇ。
 つまり,はじめに決めたことを変えられないんだ。」
「じゃあ…」
「…そう。その2階層目の夢の中で,もし眠ったら,
 またポテト王国の夢を――3階層目に突入してしまうんだ」
「…!」
「でもよ,眠らないってことは相当キツいぜ…
 どれだけ意志の力が強くても,
 どんなに頑張っても…睡魔が相手じゃどうしようもねぇんだ。
 それで…今俺は5階層目にいる。
 あの場所に倒れてたってことは…ここに来てからは,まだ眠っちゃいねぇ。
 そういう意味では,感謝するぜ,起こしてくれて」
「…あ,いや,僕は何も…」
「まあ,気にするなって。これは俺の問題だからな。
 それに,センドーがいりゃ,眠りそうになったら起こしてもらえばいいわけだしな」
「…うん」

僕らは歩き続けた。
コージローの話によると,この森を抜けたところに広がる荒野の真ん中に,
「時の町」と呼ばれる町があるらしい。
そこで宿を借りて,身体を休めることにした。

歩きながら,お互いのこれまでのことを話した。

コージローは,はじめてポテト王国の門をくぐったとき,
王都があるこの大陸とは別の大陸がスタート地点だったそうだ。
長旅のうちに眠ってしまって,
第2階層目のポテト王国の門をくぐると,また別のスタート地点に移されてしまったらしい。
この「5階層目」では,比較的王都に近い場所がスタート地点で,
嵐の中ようやく森を抜けようとしたところで…
渡っていたつり橋が暴風で切れて,真っ逆さまということだ。
コージローの目の下にはくまがありありと見えていて,歩き方も,少しふらふらしている。
あ,そうそう,彼は,僕の3歳年上だということがわかった。
もっと上に見えるけれど…

僕が自分の名前をポテトにして,そのことが原因で王都に入れなかったことを話したら,
コージローは哀しい顔をした。でもすぐに,何か考えるような顔つきになった。

森を抜けた僕らは,果てしなく広がる荒野を歩く。

「…とにかく,一刻も早くこの夢から抜け出そうぜ。
 俺は…現実世界の俺は,今夜,大事なライブがあるんだ」
「そうなんだ…」
「この5階層目にくるまでにどれだけの時間が経っちまったのか…一晩であることを願うが…
 お,見えたぜ!」

コージローが指差す先には,夕陽に染まる「時の町」が見えた。
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by coperfeels | 2009-11-21 21:44 | 小説

ポテト王国 #8

「鋼鉄」??
代表??

…製鉄会社の若社長?
…でもそんな風貌じゃないし,年齢も僕とあまり離れていない気がする…
いったい,なんの組織だろう…

で,名前は…


「勅使」!?
「勅使」の「河原幸次郎」さん!?
ということは,王様の使者…もしかしたら,この人を通じて王様に会えるかもしれない。
…でもそんな風貌じゃないし,さっきの「製鉄会社の若社長」よりも可能性が低そう…

「河原,幸次郎さん?」

そう言った瞬間,彼は右の眉根を持ち上げて,変な顔をした。

「カワハラァ!?
 おいおい,たのむよ,テ!シ!ガワラだよ,テ・シ・ガ・ワ・ラ!
 これだよこれ,この二文字!
 まったく,人の名前くらい,ちゃんと読んでくれよ…」
「あ,ごめん,「勅使」の「河原幸次郎」さんだと思った」
「勅使!?
 ああ,そう…読めなくはないか。でも,そんなふうに見えないだろ?」
「…見えない」
「まあ,いい。で,あんたの名前は?」
「仙道…歩天人」

今度は,左の眉根を持ち上げて,変な顔をした。

「ポテトォ!?
 おいおい,つまらねぇ冗談はよそうぜ。
 俺も本名を名乗ったんだ,あんたも本名を名乗ってくれよ」
「…本名なんだ」
「えぇ?ポテトが本名ってそんな…
 …あ!!
 もしかして…あんたも…このポテト王国に迷い込んだ人間か?」

彼の表情に,同情にも似た悲しみの色が浮かんだ。

「うん…勅使河原さんも?」
「…ああ。
 そうか…まったく,いまいましい夢だぜ!!」
「…」
「あんたは…自分の名前をポテトにしちまったわけか…
 …でも,この世界での本名がポテトでも,現実世界での本名があるだろう?それを教えてくれよ」
「…思い出せないんだ」
「えぇ,マジかよ!?
 …気をつけた方がいいぜ,ここが夢の中であることを常に自覚していなきゃダメだ。
 『王様に「ごきげん,いかが?」と言って夢から覚める』目的を忘れたら,この夢に取り込まれちまうぞ。
 でも残念だな,本名がわからなきゃ,なんかあんたと話している気がしないわ」
「…」
「まあ,そんなことを言ってもしょうがないか…
 とりあえず,俺はあんたのことを「センドー」と呼ぶ。「ポテト」より,そっちの方がいいだろう?」
「…うん。じゃあ僕は…勅使河原さんで」
「うーん,なんか堅いな。
 俺のファンの子たちは,「テッシー」と呼ぶんだけどなぁ」
「て,テッシー!?
 ファンの子?」
「あれ,さっき渡した名刺に書いてなかったっけ。
 俺,「鋼鉄」ってバンドのリーダーで,ギターやってんのよ。」

「鋼鉄」代表――わかるはずがない。

「へ…」
変な名前,と言いかけて,あわてて口をつぐんだ。
そんなことを言ったら,ブッ飛ばされそうだ。
「…ヘヴィー・メタルのバンド,なの?」
「違うな。ヘヴィー・メタルも嫌いじゃないが,俺の表現形式に合わない。
 言うならば…最もシンプルなロックってとこだな。
 ちなみにバンドのキャッチコピーは,『レタスより,ジャキジャキ』だ。イカすだろ?」
「…,え?」
「あれ…反応悪いな。もう一度言う,『レタスより,ジャキジャキ』だ。イカすだろ?」
「…」
「あれ…説明必要?えぇと…
 俺たちのサウンドはギターのカッティングが前面に出てるんだが,
 弦を刻むその鋭さが,レタスのシャキシャキ感よりも凄いわけよ!
 それを表すイメージが,『レタスより,ジャキジャキ』なのよ。どうだ,イカすだろ?」

どれだけ説明を受けても理解できそうにないので,話題を名前に戻すことにした。
僕は,彼を「テッシー」とは呼べそうにないから…

「うん…じゃあ僕は,「コージロー」って呼ぶよ」
「え?ああ,ああ…そうか,名前の話をしてたんだったな。
 OKだぜ。「テッシー」と呼ばない理由は,あえて聞かないでおこう」
「ありがとう。
 ところで…コージローは,何をポテトにしたの?」

はっと我に返ったようなコージローの表情には,
さっきまで夢中になって話していたときとは違い,疲れたような影が射した。

「俺は…センドーと同じように,モノじゃないものをポテトにした…」

「…何を?」

どこか一点を見つめるコージロー。

「…俺の,「夢」を」
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by coperfeels | 2009-11-21 15:45 | 小説

ポテト王国 #7

不機嫌な言葉を発したそれは,
こんな場所にふさわしくない出で立ちの人間だった。

全身びしょ濡れで,
細身の身体にまとわりつく黒いシャツ,黒いズボン,黒いブーツ…

目を覆い隠すまで垂れ下がった黒髪,
こちらを睨みつける鋭い眼光,
少しこけた頬,
真一文字に結ばれた口…

どう控えめに見ても,
自分に良い影響を与えるタイプの人間ではない。

「…って,あれ?え?
 ここは…どこだ?お前は…誰だ?」

その男は,濡れた髪をかきあげもせずに辺りを見回した。
でも,自分の置かれた状況が飲み込めないらしく,
最後に,僕に答えを求めてきた。

僕は,さっきの悲鳴に驚いて,川の浅瀬にしりもちをついたままだ。
…腰が抜けてしまっている。

「…なぁ,どうして俺は,ここにいる?
 お前は…誰だ?」

声を出そうとしたが,うまく出ない。

「あ,そうか,人の名を尋ねる前に,自分が名乗らないとな」

男は,黒いシャツの胸ポケットから,
すっかり濡れてへなへなになった紙を取り出した。

「すまん,これが最後の一枚だ」

その紙――名刺には,こう書いてあった。

  --------------------------
      「鋼鉄」代表

     勅使河原幸次郎
  --------------------------
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by coperfeels | 2009-11-20 21:07 | 小説

ポテト王国 #6

続きを書こうと思いながら,長い間があいてしまいました。
すみません。
今日から,再開します!!

(あらすじ)-------------------------------------------------------------------------------------
夢の世界でポテト王国に入国することになったマサオは,
「あなたの生活に関わるものの中で,何か一つを,ポテトにしてください」という指示を受け,
自分の名前をポテトに変えた。
この奇妙な夢から覚めるためには,ポテト王国の王様に会わなければならないが,
王都の入り口となる城壁で兵隊と口論になったことがきっかけで,追われる身となってしまった。
ものすごいスピードで追ってくる兵隊。
必死で逃げるマサオだが,つまずいて森の茂みの中に突っ込んでしまう。
もう捕まると思ったが…兵隊がやってくる気配がない。
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(…おかしい)

マサオが外の様子を見るために,茂みからそろ…りと顔を出すと…

いる!!

わずか10mほど先に,4人の兵隊がいる!!
マサオと兵隊達の目は完全に合っている。
なのに,兵隊達はそこから一歩も動こうとしない。
むしろ,少しうろたえているように見える。
マサオは事態がのみこめずに動揺した…どうやら兵隊達は,この森に入れないらしい。
もしかしたら,この森に恐ろしい動物でもいるのだろうか。
わからないけれど,この森にいる限り,兵隊に捕まることはなさそうだ…

マサオは,身体を休める場所を探して森の奥へと足を踏み入れた。
どこに行けばいいかわからないし,これからどうやって王様に会いに行けばいいかもわからないけれど,
極度の緊張で疲れた身体を休めたかった。

堆積した枯れ木や落ち葉を踏みしめて歩く。
ぺき,ぺき,という乾いた音が響く。
時折,どこで鳴いているのか,カラスのような鳥の声が聞こえる。
しばらく歩いていると,水の流れる音が耳にひっかかった。
川が近くにある?…そう思いながら,マサオは音のする方へ歩き続けた。
どれくらいの時間,歩いただろうか。
やがて音は急速に大きくなり,ついに森を流れる川を見つけた。
川沿いに巨木が倒れており,マサオはそれを乗り越えて川の方に飛び降りた――

瞬間。

「オヴァ!!!??」

足裏に伝わるグニャリとした感触とともに,ヒキガエルにも似た悲鳴が宙を裂いた。

「ヒイッ!!!??」

マサオも,驚きのあまり悲鳴を上げた。

足元にある黒い物体…がムクムクと起き上がり…



「…てめぇ,俺に何しやがんだ…」
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by coperfeels | 2009-11-19 21:52 | 小説